『心の結び目』”本物の日本人”ってなんだろう。 ~おすすめ図書@上海♬
古今東西を問わず、居住地の移動に伴う出会いと戸惑いはあります。過去に於いては、それをどのように生かしていくかは皆それぞれでした。国際化の必要性が叫ばれて門戸が大幅に開いてきたのは数十年前、まだ海外渡航は少数組の時代です。その後為替レートが変動制になりビザや渡航方法の選択肢が増え、日本と外国との交流が加速して現在に至ります。
国内外の行き来が容易になった現在、便利さと快適さと引き換えに新しい論点が注目されています。それは、国際人のアイデンティティについて、だと思います。例えば、外国で育った日本人、国内外で育つ日本人と外国人とのハーフ、日本で育つ外国人の子供、などが自分の文化的な軸をどこに設定するのか。また、バランスよく分散するとしたらどのように導いていったらよいのか。
エッセイ集『心の結び目』にはそのヒントがあると思います。おばあちゃま、ママ、かれん (娘)の三代が日本の詩を通して今までの人生を寄りあわせて日本文化を軸に家族の交流を再構築する様子がとても生き生きと描かれています。
この本を読んで、私自身も元気と反省の機会をもらいました。中国人の夫と日本で結婚、二人の子供を出産した後に上海に引っ越してきたのは2001年6月です。最初は無我夢中の毎日でしたが、やはり子供を健康に育てなくてはと原始的な本能が芽生え、当時2歳8ヶ月の長男をローカル幼稚園に入れました。男の子はあり余るエネルギーをどこかで発散させなければいけないと感じたのです。・・・日系のモンテッソーリ幼稚園入園までの待ち期間でしたが、6ヶ月のローカル幼稚園生活は息子よりも私に教えてくれることが多かったです。そこでは昼食後にお昼寝の時間がありましたが息子はそれに馴染めず、一日に9回もおもらしをしてしまったこともありました。園に私が用意しておいた着替えは2着のみ。。。さすがに先生が心配をして電話をかけてきてくれました。「病院に行ったらどうでしょうか?」と。中国語もおぼつかない時期でしたが直感で意味を理解できたと思います。さいわい病気ではなかったのでホッとしましたが、近所の中国人のお母さんが「おねしょに効くよ」と教えてくれたスープを試したり、漢方の病院に行ったりと、私が鍛えてもらった良い機会だったのかなと実感してます。本人はいたってケロッとしていて平常心でしたので。。。実は息子のそんな天真爛漫さにも救われた気持ちがします。
上海は以前から日本人が多い都市ですが、多いが故に日本人学校が発展していて私たちが居住した当時日本語補習校はありませんでした。日本人は日本人学校に通うものだという概念がありましたので。よって我が家のような場合は各家庭が方法を見つけて子供達に教えるという模索を続けるしかなかったと思います。日本人幼稚園に入園したら、習い事は中国語、英語の先生が担当する教室に通う、インター校に転校したらその逆に日本人、中国人の先生に習う、そして継続的に国語は塾で、中国語は家庭教師に、と分散してきました。息子はアメリカの大学に進学、娘もこの8月より受験生となり後に続きます。子供達は現在日・英・中のコミュニケーションには問題ありませんが、 ”何か自身のアイデンティティの軸になるものがあるのか、、、”と疑問を抱かされたのはこの本でした。 正解はありません。みんなそれぞれが成長していく中でのヒントになればと思います。
著者の春日真樹さんとはご縁があり、上海で子供達が同じ学校に通っていました。嬉しいことに、かれんちゃんは念願叶い日本の大学に通うことになりました。挿絵を描いた妹のえりかちゃんと一緒に、これからたくさんの冒険を経てますます成長をしていくことと思います。
あまり詳しく書きすぎてネタバレもいけませんので、この辺でレビューを閉じさせていただこうと思います^^♬
上海グループ・加藤佐苗