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  • M(英大44)

「女性の活躍」と香港

M(英大44) 

香港のシンボル花「バウヒニア」


 香港に来てまもなく4年になる。海外勤務は2回目。今回はいろいろなことを自分で決められることも多く、もちろんその分責任も重いが、やりがいもある。これまでの香港生活を振り返るにはまだ少し早いのだが、津田塾生らしく「女性の活躍と香港」について、思いつくことを書きたい。


 香港に来てすぐのころ、偶然、香港で働く日本人女性についての昔のテレビのニュースリポートを見る機会があった。詳しく覚えていないが、制作されたのはおそらく1990年代、日本社会を窮屈だと感じ、単身、香港に乗り込んで現地の企業などで働く20代、30代の日本人女性が増えているといった内容だったと思う。男女雇用機会均等法施行前後の時代の先輩たちの物語で、「働きやすさを求めて移住した香港で、いきいきと輝く日本人女性たち」を紹介していた。私自身、いま香港で働いてみて、確かに「暮らしやすい街だ」と思う。なぜそう思うのか。

 1つめは、「女性であることが、評価に影響しないこと」だ。私が就職したのはリポートが描いたころとも重なる1997年。会社はちょうど女性の採用を増やし始めていた時で、「もう男だから、女だからという時代じゃないよね」と、私の年次から、仕事上の配慮が全部取り払われた。泊まり勤務などの順番が一律に回ってくるようになり、1年目や2年目のころから危険な場所にも容赦なく行かされ、仕事上での男女の区別は全くなかった。

 年次があがるにつれて、巡り合わせのようにそれまで女性がやったことがなかった仕事も任される機会が増え、新しい担当につくたびに「女性初の」という修飾語が付くことが多かった。そんな中で、「女性だから出来なかった、女性にやらせたから失敗したと思われないようにしなければ」と、妙に肩に力が入ることも多かったように思う。(ところで、これは当時の津田塾で、男性と肩を並べて活躍する女性になることを、ことさら強調されてきたことも影響しているような気がしている。果たして今の津田塾でも、そうなのだろうか?)。

 しかし、香港ではそんな風に肩に力を入れる必要がない。何よりも様々な分野で、女性のリーダーを多く見る。香港政府トップの林鄭月娥行政長官をはじめ、新型コロナウイルス対策を主導する衛生局長や、司法長官に相当する律政司も女性だ。19年のデモ以降、何かと批判の対象になってきた林鄭長官に対しての市民の評価は、あくまでその仕事ぶりに対してであり、「これだから女性のトップはダメだ」とか、「女性だからうまくいった」などという評価を聞いたことがない。本人も女性であることをことさら強調することもないし、結果がすべてである。

 選挙によって選ばれる政治家たちも同じ。立法会の議員のうち、女性は90人中17人で半分にも満たないが存在感がある。最大政党の「民建連」、それにつぐ「新民党」も党首は女性。選挙戦では、日本の選挙でよく見る「女性の視点を政界へ」「女性の声を代弁する」などといったうたい文句を見たことがない。女性であることを前面に出して戦うことが成り立たない選挙なのだろう。そういう社会の様子は、日本人女性から見てとても潔く気持ちがいい。


香港の立法会議場


 2つめは、「外国人であることを意識させない」街であること。香港に来て驚いたのは、想像以上に国際都市であることだ。イギリスの植民地だった名残で、イギリス人が多くいることは知っていたし、その影響でインド系やパキスタン系の人たちが多くいることも容易に想像できた。しかし、人口740万人あまりのこの地に、約8`万人のアメリカ人が住むことや、アフリカの人たちのコミュニティがあること、30万人以上のフィリピンやインドネシアなどの女性たちがヘルパーとして働いていることにも驚きだった。人口における「外国人」の割合がとても高いのだ。香港にある外国の総領事館は63。首都ではない1つの都市としては、世界有数だろう。

 そんな街で、怪しげな広東語や英語を話すとたちまち、「日本人ですか」と聞かれるが、生活する上で、外国人であることを意識することはほとんどない。香港IDと呼ばれる住民登録をしている市民であれば、国籍がどこであろうと、香港の市民として扱われる。参政権の有無や、政府の給付金が得られるのかに差が出るのは、国籍ではなく「永住権」を持つか持たないかだ。日本や中国大陸から香港に戻る時も、香港IDだけで入境できる。街なかで外国人差別の恐怖を感じることはまずないし、様々な手続きで不便を感じることもない。中国本土で暮らした時には、オンラインショッピングや銀行の振り込み、映画館の会員登録でさえも、身分証に記載された外国人の識別コードのおかげで難儀をしただけに、その違いに驚く。

 そんな社会だから、国籍だけでなく、独身であろうが、地方出身だろうが、髪の毛をピンクに染めていようが、個人の生活に著しく影響しない限り、何をやっていても特別な目で見られることがない。「どうぞ、ご自由に」という姿勢は本当に心地良いものだなと思う。

 テレビのリポートが取り上げた日本人女性たちは、香港が「女性であることが、評価に影響しない」し、「外国人であることを意識させない」街であることを見抜いていたのだろう。性別や年齢、国籍などの個人の背景にとらわれることなく、様々な人と関係を結ぶことができる街。残念ながら、就職活動をしていたころの私には、考えもつかなかったが、縁あって、いまこうして香港で暮らしてみて「女性が活躍する社会」というのは、こういうことなのだろうな、と思っている。

この数年で香港社会は大きく変わった。それでもいつまでも日本人の女性たちが働きやすいと感じられるこの環境は変わってほしくないと思う。



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