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平野裕見子(英大41)

私の転職成功法

私は社会人になって今年で25年になる。その間に7回の転職を経験した。日本で日本企業3社、外資系4社を経て、2014年から香港で米国系企業に勤めている。1社における勤続年数は最短1年、最長5年、平均すると約3年。非正規雇用だったこともあるし、無職で遊んでいた時期は三度ある。特に計画性もなく、思いのままに歩んできた。それでも概ね楽しく、充実した仕事人生を送れてきたし、気がつけばキャリアらしきものが築けていた。時折、転職の秘訣について聞かれる。意識して戦略的な転職を繰り返してきたわけでもなく、高尚なアドバイスはできないが、これまでの軌跡をたどれば何らかのヒントが見えてくるかもしれない。

新卒で入った損害保険会社を丸5年で辞めたとき、これからは手に職を持たなくてはと考え、翻訳者を目指した。翻訳会社でのアルバイトを経て、設立間もないメガバンク系証券会社の調査部門に翻訳者として採用されたのは29歳のときである。最初は派遣社員としてリサーチ・レポートの翻訳を一人で担当した。2年後に社員になり、エディターという立場でチームを束ねる立場になった頃、他社との合併が決まり、部門統合後の業務体制づくりに参加した。次いで米国系金融情報会社に入り、1年で仏資本の香港系証券会社に移った。立場は以前と同じ調査部門のエディターだが、かつては日本人アナリストによるレポートの英訳及び編集であったのに対し、こちらは外国人アナリストが英語で書いたレポートの編集が主と、似て非なる業務である。東京支社は設立されたばかりだったこともあって、まず業務体制をつくり、その後サブプライム・バブルに乗じて拡大し、次いでリーマン・ショックを機に今度は縮小と、めまぐるしい4年間であった。次のスイス系証券会社では調査部門のマネジメントとして業務の外注化を担った。そろそろ調査部門以外の仕事をしたいと思っていたところ、米国系証券会社のコンプライアンス部門が人材を探していると聞いた。未経験分野だが、調査部門とは日常的に関わりがあり、密かに興味を持っていた部門である。その後とんとん拍子で話が進み、41歳で晴れて調査部門を卒業した。現在所属している企業はコンプライアンスに鞍替えしてから2社目。香港にある米国系投資運用会社で、法令遵守責任者を務めている。

転職は、2つの決断をして初めて成り立つ。1つは現職を辞めることの決断。私の場合、現状に退屈感が募り、今後も状況の変化が見込まれない時、職場の雰囲気が合わないと確信した時、より面白そうな仕事が見つかった時に決断を下した。その理由を合理的に説明できる必要はないだろう。結局のところ、辞めたいから辞めるのだ。

2つめの決断は次の仕事の選択だ。私が求めるのは「新鮮さ」である。以前と変わり映えがせず、目新しさのない仕事には食指が動かないし、経験上その会社にとって真新しい仕事を任されることが性に合っている。この点で、現職は理想的であった。当社は、日本において特定の証券業務を行う資格を国と証券取引所の双方から取得することを目指すにあたり、日本人のコンプライアンス責任者を求めていた。いずれの資格も外国の法人に付与された前例はない。まさに目新しく、真新しい業務であった。

余談ながら、コンプライアンスとしての私の職務は、業務管理体制などを整備し、会社が国の許可を受けて行う業務において守るべき法令・規則(当社の場合は金融商品取引法など)に違反するリスクを最小化することである。パワハラやセクハラなど金融商品取引法に規定のない事案は、あいにく範疇外なので誤解なきよう。

さて、転職先選びについての最終的な判断基準は、「面白そう、やりたい」と手放しで言えるかどうかである。給与は食い扶持としてだけでなく、自分に対する会社の評価の指標としても重要だ。また、「ベンチがあほだと野球ができない」というのは真理だと思う。あほかどうかはともかく、自分と相性の悪い上司と仕事をするのはあらゆる意味で厳しいので避けたい。さらに現職も勤務地が香港だから一も二もなく受けたが、違う国であればオファーを受ける決断をしたかどうかはわからない。その他、考えうるあらゆる要素を加味し、少しでも「違う」と思うところがあれば、そこは私の居場所ではない。

私は転職に失敗したことがないと自負している。意気揚々と入社してみたら何もかもが噛み合わなかったことはある。それを耐え忍び、乗り越える経験を持つことに価値は見出さないが、そこへ入社したのはやりたい仕事をするためである。その目的を果たすまでは辞めない。任されているプロジェクトを完遂した、ある業務の責任者としての立場を確立したなど、何か1つでもその仕事で実績を築くまではその場に留まる。実績という成功体験があれば、その転職は結果的に失敗ではないはずだ。

改めて辞書を引くと、キャリアとは「職業・技能上の経験、経歴」だという。 私は、その時の自分にとって最良の場を選び取り、その場で最善を尽くすことを繰り返し、経験を積み上げてきた。思うに、経験を増やすことは自分の引出しを増やすことである。遠い昔の損保オーエル時代からの引出しでも、開ける機会はいまだにある。無駄な引出しはないと、経験を積むにつれて強く実感している。折りしも、今の職場に移った目的である資格の取得は、近日中に達成できそうである。今のところ辞めるつもりはないが、来年の今頃は退屈して新しいことを探し求めているかもしれない。また1つ経験の引出しが増えた自分のキャリアが、今後どのように展開していくのか楽しみである。

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