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  • 森田倫代(英文4年)

楽しいラマダン ―「非日常」の力とマレーシアの多文化共生―


(生徒たち)

 東南アジアに位置するマレーシアは、イギリス植民の影響で、大きく分けてマレー・中華・インド系の民族が共存するようになった。3民族が1つの国家を形成しているため、各民族はお互いを尊重し合うことが重要である。ただし、宗教の違いや、歴史的、政治的な面で民族間に亀裂が生まれる要素を持っている。例えば、国民の信仰の自由は認められているが、国教はイスラーム教であり、法律上マレー人は皆イスラーム教徒である。また、マレー人を優遇する政策により、マレー人は経済面で他民族よりも有利な立場にある。

 そんなマレーシアでイスラーム教の特殊性が顕著になる1ヶ月間がある。それはイスラーム教徒が守らなければならない戒律の一つ、ラマダンである。ラマダン月には、ムスリムは日の出から日没まで飲食・喫煙・性行を禁じられ、他の月以上に特別な儀式が課される。一年中蒸し暑いマレーシアで、日中に水すら口にできないことは肉体的に辛いことであるように思われる。また、約4割の国民は、非ムスリムなのでラマダン月も普段のように飲み食いができてしまう中で、ムスリムは断食を遂行しなければならない。

 多文化共生が必要なマレーシアで、特に文化の違いが顕著になるラマダン月に、ムスリムと非ムスリムはどのように折り合いをなし、ラマダンはマレーシアの多文化共生にどのような影響を与えるのか。そもそもムスリムにとってラマダンとは辛いものなのか。この2点を調べるためにマレーシアジョホール州のバトゥパハという街で、マレー・中華・インド系の3民族が通う中等学校やその周辺の家庭で参与観察し、さらに教師や生徒にインタビュー調査をした。

アシスタントをしていた現地の日本語教師

 調査の結果、以下三つのことが明らかになった。まず一つ目に、ムスリムはラマダンを心待ちにするほど楽しんでいるということである。その理由は、まず唯一神アッラーに近づけ徳をためることができるためである。そして、断食を乗り越えることがイスラーム共同体の団結力を生み、ラマダン月に特別に課された行いが家族や周囲の人々との接点を増やし、絆を深めるためである。二つ目は、ムスリムだけでなく非ムスリムまでもが、イスラームの宗教行事ラマダンを楽しんでいることだ。それは、ラマダン月には、宿題や体育などのエネルギーを使う授業が減るということ、また、毎晩断食明けの食事のために出されるムスリム屋台での食事が、珍しさ、おいしさ、種類の多さから魅力的であるためである。最後に、ラマダンは、ムスリムと非ムスリムを繋ぐ力を持っていることが分かった。ラマダン期は非ムスリムがムスリムの教えや考え方を知る機会を提供し、異文化を尊重するということを学ぶ機会となっていた。さらに、ムスリムが非ムスリムをラマダンの祭りに招くことで両者の繋がりを増やす。

イスラーム教の友人に巻いてもらったトドゥン

 これらの側面を含め、なぜ、一見辛いようにも見えるラマダンが、ムスリムと非ムスリムを楽しませ、多文化共生に一役買うほどの力を持っているのかを分析する。ラマダン期は、ムスリムにとっても非ムスリムにとっても非日常であると考えられる。非日常とは祭りや年中行事など特別な時間や空間のことで、毎日展開する平凡な日々(日常)に時々現れ、日常に必要なエネルギーを確保するという役割を持つ。ムスリムにとって、ラマダンは、①行事としての非日常であり、②異文化に自分たちの宗教行事を知ってもらうという非日常である。同時に非ムスリムにとっては、①イベントとしての非日常であり、②異文化を知るという非日常でもある。ラマダンは、ムスリムにとっても非ムスリムにとっても非日常であるがために、楽しいものとなり、多文化共生に一役買うのである。

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4月からは火力発電所の製造・販売・メンテナンスに関わる日本のメーカーで海外営業として働きます。マレーシアでたくさんの日本製品が人々を支えていたこと、そしてその事が現地日本語学習者のモチベーションを生み出していたことに誇りを持ちました。そのため、日本の誇れる技術で海外の生活をより良くしたいという思いがあります。

マレーシアでの経験は、卒論・進路選択だけには収まらずこれからも私を支えてくれると確信しています。

マレー語のスピーチコンテストに出場

多民族の生徒たち

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