シンガポールのヘイズについて -目や喉の痛みは「お金」が原因
香港支部によるアジアネットワーク立ち上げから二年。香港・上海・北京・シンガポールから代表を出し、主にメールのやりとりで年4回のオンライン幹部会を開催してきました。念願だったアジアネットワークウェブサイトのオープンに伴い、各グループからの寄稿ということで、シンガポール第一回は、代表二人の対談にしましょうということになりました。
トピックは、二人で迷って、何か気負わないもの、でもシンガポールについてもっと知ってもらえるようなものをということで話し合い、当時(2015年10月)最大の関心事だった「ヘイズ」についてとなりました。個人的な関心事というより、シンガポール全体が毎日ヘイズについて皆話しているような状況だったのもあります。
以下、藤田&東、津田塾大学同窓会シンガポール支部、支部長&副支部長コンビによるヘイズについての話と、たぶんそのままではわからない状況などの解説を交互に載せていきます。
東:やっぱり一番気になるのはヘイズですよね。
藤:切実ですよね。
ヘイズというのは、日本語に直すと「煙害」。隣国のインドネシアの野焼きによる大気汚染、公害です。例年、6月頃になると空が白く濁り、喉の痛み咳、人によっては呼吸困難に陥ることも。たいていの人が何らかの症状を覚えるのですが、怖いのはその場の症状ではなくて、発ガン物質だということがはっきりとわかっているその空気を長期間、吸い続けるという状態です。タバコを吸っている人とずっと一緒に暮しているというのがイメージとしては近いです。
もちろん、有害な空気を何とか吸い込まないように、マスクをつけたり、屋外に出るのを避けたりということをするのですが、この大気汚染の問題物質PM2.5は普通のマスクで防ぐことができません。N95といわれる一番強力なマスクが必要です。ただ誰もがこのマスクを、常備しているわけではありません。お年寄りなどには優先的にコミュニティーセンターで無料で配る、などの措置はありますが、ヘイズの季節になると薬局に長蛇の列が出来ることも。
環境庁ではテレビ等の他に、HAZE(ヘイズ)というサイトhttp://www.haze.gov.sg/を通して、毎時間毎、現在まで過去24時間のの汚染値(PSI)と、どのくらいの数値でどういった危険があるのかといったガイドラインを出しています。ヘイズの時期は、マスクをつけるか、外出するか等決めるのに、このサイトをチェックするのが多くの人にとっての日課になります。
藤:N95マスクつけてますか。
東:つけてないですよ。前回ヘイズがひどかった時にマスク、売り切れになりましたよね。それで日本からいっぱい送ってきたんですけど、花粉用のガーゼ仕様だったので、あんまり効いてないと思います。今回は煙もひどくて、ちょうどお彼岸の時と重なってて(仏教徒が紙銭などを外でよく燃やしていて煙いのです)、煙の臭いがさらにひどかったですね。
藤:N95のマスクいつもつけてます。息が苦しくなったりするし、あと日焼け対策で喜んでつけてるんですよ。目立つじゃないですか、普通にマスクつけてると。でも今の季節はつけられるので。
東:わたしは目がすごく痛かったんですよね。ただサングラスつけるとただでさえ煙で白くなってるのに、さらに視界が悪くなるかと。
藤:目が痛いっていう人いますよね。
東:マスクで防ぎようがないし。
藤:じゃあそういうときはサングラス?
東:いや、だからヘイズのせいなのかなんだかわからないような感じでどんどんひどくなってきましたね。
藤:風邪みたいなんですよね。風邪なのか、ヘイズなのか。
東:そうそうそう、わからない。
それと今まで家だと扇風機だけだったんですけど、エアコンずっと動かしてるとやっぱり風邪ひいちゃいますよね。エアコンも室外機だから外の空気を取り込んでくるからよくないって皆がいってるんだけど。
藤:あとけっこう電気代もかさみますよね。
東:そうですよね。
お仕事に行かれるときもサングラスとか。
藤:いやマスクだけ。
東:マスクしてタクシーで通われてるんですよね。
ヘイズに対処するのには、お金がかかります。お年寄りなどを対象にコミュニティーセンターでマスク配布があるのと、会社によっては配布があるようですが、支給対象でなければ自分で買うしかないし、普段マスクをしない人でも窓を開けられないのでしかたなくエアコンをつけたり、通勤をタクシーに切り替えたり。空気清浄器も飛ぶように売れます。まったく対策せずに過ごせば、害があるとわかっている物質を呼吸する度に吸い込むことになるので。
国レベルの損失はもっと深刻で、有名ホテルも予約取り消しが相次いだり、観光が一大産業であるシンガポールの経済への影響は計り知れないものがあります。今回のヘイズの経済に与える打撃はいくらで、といったニュースも流れます。
2015年のヘイズでは空気汚染が危険域に達したため、小中学校が閉鎖になった日も出ました。ただし高校以上は変わらず授業があり、会社も休みになるわけではないので、小中学校も教師は出勤。保護者には、どうしても面倒をみてくれるところがない場合は、今日一日エアコンのある部屋で、教師が子供を預かりますという通達メールが届いたりしていました。
それでも、ヘイズは毎年あります。
東:たばこ吸いながらその後マスクをしてっていう人もいましたよね。
藤:あ、でもたばこよりも悪いっていいますよね。たばこよりもはるかに肺にくるって。でもどうしてそういうのが、悪いってわかってるのに毎年あるんでしょうねえ。
東:ねえ。
でも、本当に冗談かと思ってたんですけど。インドネシアの当該地は、PSI2000とか超えてるんですよね。もうこっちでも200超えたらしんどいじゃないですか。本当に何にもないところだから、小屋とかに住んでるんでしょ。一日中吸ってるんですよ。取り締まりがあるはずなのに、どうやって生きてるんでしょうか。それは生活のためだもの、なんかティッシュペーパーとか不買運動はじめたらようやく腰上げてくれた感じじゃないですか。
藤:テッィシュペーパーの会社でしたっけ。
東:製紙用パルプ材やパームやし農園プランテーションが野焼きしているんですよね。野焼きが一番経済的な開発方法だから。インドネシア産のティッシュやコピー用紙は安いけど、みんなに迷惑かけて作ったものにはいいことない!ということが身に沁みてわかる。
藤:紙とかオイルとか砂糖?わたしよくわかってないんですけど、パームツリーを焼き払うんですっけ。
東:パームツリーはいろいろ役に立つんですよ。ココナッツは切っちゃうんです。切ってまた植えるんですけど、だからもう どんどん作っては切って、作っては切って、で焼いちゃう。焼いたらあとは肥料になりますもんね。
あと、シンガポールはもちろん周辺国が火災を消す手伝いをしましょうと言ってるのに、断られたのが頭にきましたね。インドネシアのプライドもあるのでしょうが、火元も問題地も確定できないのは大問題ですよね。
インドネシアで毎年、新しい畑を作るために、大規模な野焼きが行われます。野焼きは、一度収穫の終わった畑を再利用するのに、一番効率のいい方法です。人手を使って更地にするよりも遥かに安価で、しかも灰が豊富な栄養分となるため、過去40年近く続いてきたものです。焼かれた畑は灰になり、インドネシアの畑地帯はもちろん、灰はモンスーンに乗ってシンガポールの空を覆います。シンガポール政府からの度々の要請と、インドネシア国内でも野焼きを抑制する方向に様々な対策がとられてはいます。近年では、野焼きをしている企業名を公表したことにより不買運動が巻き起こり、これは抑制効果があったようです。買わないという形でヘイズを止めることが可能だと示した形になりました。
2015年のヘイズは結局、3か月ほど続いて終わりました。津田同窓生の中にも、喉や目が痛くなったり、外に出るのをためらわれたりという方も多かったです。あまり日本で大きく取り上げられることはないのですが、シンガポールでの暮らしでは、毎年やってくることもあり、けっこう切実な問題です。
藤:2016年は、ヘイズのない世界になりますように!
東:我が家もヘイズの最中、子供が体調くずさずに無事卒業試験を乗り切れたのでほっとしました!いつでも青い空のシンガポールが続きますように。
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